ローマの信徒への手紙 5:1~5
フィンランドで2番目に小さな家に暮らす男の子ニコラス。貧しいながらも愛情いっぱいに育てられました。しかし、次々と不幸がニコラスを襲います。家族も、住む家さえも失った11歳のニコラスは、仲良しのネズミと共に北へ旅立ちました。伝説の妖精・エルフを捕まえてお金持ちになろうと旅に出た父親を探すためです・・・。イギリスの童話作家マット・へイグのクリスマス3部作の最初の作品「クリスマスとよばれた男の子」です。2015年に出版され、2021年には映画にもなりました。まだの方はぜひお読みになってください。
この作品のモチーフは「サンタクロース」です。しかしサンタクロースの起源を語ることがこの童話の目的ではありません。父親に会いたい一心で北へ向かうニコラスが絶望的な状況の中で出会った「希望を生み出す魔法」の正体を描き出すことがこの童話の主題です。小学生向けのストーリーですが、世の中の苦しみに負けそうな大人たちこそが、この童話の読者としてふさわしいように思います。
父親を探す旅の途中、ニコラスは「親切にすること」を禁じられたエルフたちに捕まり、牢に入れられます。そこで出会ったおしゃべりな妖精にニコラスは次のように語りかけます。『ぼくのいた人間の世界はいやなことだらけだ。貧乏や飢えや悲しみ、いじきたない人や不親切な人が、そこらじゅうにあふれてる。(中略)そんな世の中じゃ、心がすさむのはあたりまえだよ。だからもしどこかにいい人や親切な人がいれば、それ自体が魔法なんだ。みんなに希望をあたえてくれるから。希望ってのは、この世でいちばんすばらしいものだよ』このセリフの「魔法」を大人の言葉に言い換えれば、それは「奇跡」だと思います。「いい人や親切な人」に巡り会うことは、わたしたちを希望に導く、すてきな奇跡なのです。
パウロはローマの信徒への手紙の中で「そればかりでなく、苦難をも誇りとしています。苦難が忍耐を生み、忍耐が品格を、品格が希望を生むことを知っているからです」と語ります。「品格」とは「完成された人間」という意味です。完成された人間に育てられることによって、苦難は希望へとつながっていくのです。ただ、完成された人間になるために苦難をがんばって忍耐しなければならないとすれば、それはそれで大変なことです。しかし苦難にあるとき、わたしたちはその苦難を必ず一人で耐えなければならないわけではありません。
パウロは苦難が希望に導かれることの前提として「私たちは主イエス・キリストによって神との間に平和を得ています」と語ります。「イエスさまを通して神さまの親切がわたしたちに示されている」と言い換えていいでしょう。その親切の象徴がクリスマスです。神さまの親切は幼子の姿となって、この世に示されました。神さまが人となって、人々の苦難に伴ってくださったのです。それだけではありません。その幼子を拝みに訪れた人々もみな「いい人や親切な人」になりました。苦難の中に生きる人々と神さまの間に奇跡が起こったのです。
クリスマスの奇跡はわたしたちを、苦難にある隣人のもとに、「いい人や親切な人」として遣わそうとしています。共に悩んで過ごすために、わたしたち自身が用いられます。苦難が解決していなくてもいいのです。自分に寄り添ってくれる隣人がいるだけでも十分な希望であることを、わたしたちは知っています。(牧師 斎藤成二)